トランプとセラピストたち
2月21日付のロサンゼルス・タイムズにトランプ現象が精神医療におよぼす影響についての記事が出ている。
いわく「なぜセラピストたちはトランプについて語るのにかくも難儀するのか?」
記事によれば、トランプ現象によってトランプ支持者および非支持者のいずれにも心の病がふえている。
患者がかくも同じ理由でセラピストの門を叩くのは、9.11テロ以来のことであるという。
関係性人格障害や摂食障害に関係のなさそうな患者も、いちようにトランプのことを話題にする。
トランプ支持者はトランプに投票したという理由で周囲から孤立してしまっているだけでなく、外国人嫌悪、女性嫌悪(いっしゅの病気ないし狂気である)というレッテルを張られるのではないかという不安に苦しんでいる。
一方、性暴力の被害者である女性たちは、トランプの女性蔑視的な発言に怯えている。
トランプの発言がフラッシュバックを引き起こしたり、被害妄想よばわりされて被害の事実を打ち消されることへの不安を増大させている。
ミネソタ大学教授でセラピストのウィリアム・ドアーティは「トランプはアメリカのメンタルヘルスにとっての唯一の(unique)脅威である」とのマニフェストをウェッブ上にアップし、3800名以上のセラピストがこれに署名した。
トランプはセラピストが奨励しない態度が正常なものであるとの錯覚を流布している。個人的な恐怖や不安ゆえに他人を責めたりする態度や、健全な人間関係を阻害する超マチズモなどがそれである。
ドアーティは先月、「民主主義のための市民セラピスト」というグループを立ち上げた。
患者のみならずセラピストのほうも苦労を抱えている。
精神療法はほんらい私的な生活領域や私的な心理を扱ってきたために、このような「公的なストレス」は扱い慣れていない。
政治的な議論を度外視してトランプ現象を語れるのか? トランプにたいする立場がじぶんと異なる患者をどう治療すべきか? じぶんの政治的立場を治療に反映させてよいのか?
ことは逆転移、分析家の欲望にかかわっているわけだ。ヒラリー・ゴールシャーというビバリー・ヒルズの精神科医はいみじくも「トランプを裁くことへのセラピストの欲望」ということばをつかっている。
このデリケートな問題については専門家の意見も分かれている。
トランプ個人の人格にセラピストが判断を下してしまう危険もある。これは「ゴールドウォーター・ルール」という取り決めによってセラピストに禁じられている。
1964年の大統領選の際にバリー・ゴールドウォーターを千人以上のセラピストが候補として不適切な人格であると判断した「倫理的勇み足」によって精神医学そのものが信用を失ったことでこの取り決めができた。
セラピストたちは、Twitter や Facebook の閲覧をやめたり、負の感情をポジティブな方向に向けかえるといったことをアドヴァイスしている。