Freud quotidien

フロイトおよび精神分析をめぐるエッセー、スローリーディング、書評、試訳などなど

トランプとセラピストたち(続)

 

 アメリカの精神科医やジャーナリストが寄ってたかってドナルド・トランプの“狂気”の診断に余念がないとル・モンドが報じている。

 

 トランプ当選直後にそれぞれスタンフォード、カリフォルニア大、ハーヴァードの教授である三人の女性精神科医が「精神的不安定の症状」「誇大妄想、衝動性、拒絶反応や批判への過敏」「想像と現実の区別の明確な不可能性」との診断結果をバラク・オバマに送りつけたのが皮切り。

 

 この十一月にはワシントン・ポストがトランプが就任以来1,628におよぶ「虚偽もしくは誤った」発言をしたとのファクト・チェックの結果を公にし、その病的な「慢性的虚言癖」を指摘した。

 

 二月の「サイコロジー・ツデー」誌の記事では、二人の精神科医が「自己愛的な人格」「攻撃的ふるまい」「上から目線」「品のない誇張」「嘘」「脅迫」「嫉妬」「共感の欠如」「“オレ対ヤツら”的世界観」、「自信のなさ」を取り繕うための「自慢癖」といった諸症状を診断し、百万件のアクセスを記録。

 

 同月、ジョンズ・ホプキンス大の境界例の専門家は統治能力の欠如ゆえ合衆国憲法第4条25項に則ってトランプを罷免させよとの嘆願書をウェッブ上に出し、七万人近い賛同者の署名を集めるに至っている。

 

 こうしたうごきにたいしてはとうぜん、職業倫理に照らしていかがなものかと疑問視する声が同業者のなかからも上がっている(周知のとおりかの地には「ゴールドウォーター・ルール」という掟が存在する)反面、ぎゃくにトランプが「危険分子」であることを国民に警告することが医者の職業上の義務であるとの声も出て、侃侃諤諤の議論が沸き起こっている。

 

 十月に27名の専門家が上梓した論集『ドナルド・トランプのキケンな症例』においては、トランプの発言やツイートに「過激で暴走した現在(ママ)の快楽主義」が見てとられ、トランプじしんの幼児性(その性の観念も含めて)や「ソシオパス」ぶりが指弾されると同時に、その狂気の国民への感染が指摘されている。いわく、トランプの異常を正常だと思い込もうとする結果、アメリカ人のあいだに寛容と責任を欠いた非人間的な攻撃性が蔓延しているのだと。